今日のBGMです。
【ドイツ男一人旅物語】10話 ローテンブルク
おじいさんと別れた茂は、心穏やかに、自分のホテルへと帰った。疲れ切っていたせいか、ベットに倒れ込むとすぐに眠りについた。
その夜、夢を見た。
夢の中であのエリーゼが現われた。
「今日は私の父に会ってくれてありがとうございました。ああ、見えて父は今とても寂しいと思います。父はとてもおしゃべりが好きな人で、いつも誰かと話をしていないと寂しくなってしまうんです。この10日間、父は誰とも話をしていません。今日あなたが父の話し相手になってくれたことを感謝します。お礼にあなたにいいことを教えます。明日、ローテンブルクへ向かってください。きっといい出会いがあると思います。」
普段、夢を見ても起きて5分でほとんど忘れてしまう茂だが、このエリーゼの夢は不思議なことにしっかりと記憶されていた。
特に行く場所を決めていなかった茂は、ホテルをチェックアウトし、エリーゼに言われた通りローテンブルクに向かうため駅へと向かった。旧市街よりも駅周辺の方が人は少ない。これはドイツでは普通のことだ。駅のベンチでトーマスクックの時刻表を開き、列車の時刻と乗換駅などをチェックした。
一体ローテンブルクでどんな人に会うのだろうか?少しわくわくしていた。そして、ちょっとだけよだれが垂れた。
あなたもよだれ垂れてますよ。でも素敵です。
自由な旅はいい。今日行くところは今日決める。
DB(ドイチュバーン)に揺られながら、茂は車窓の向こうの風力発電の風車を眺めていた。
ドイツには多数の風車を電車から見かけることができる。自然エネルギーの活用が進んでいる国なので風力、太陽光などの活用が盛んである。
朝は天気が良かったが、徐々に曇ってきてローテンブルク駅に着いた時には雨が激しく降っていた。
駅で雨宿りをしていたが、止む気配がないので、駅の横にある軽食屋さんでコーヒーを飲むことにした。
アイネ タッセ カフェービテ
こう言えばホットコーヒーが出てくる。
これは覚えておいた方がよい。英語で言うより店員は笑顔で対応してくれる。
30分ほどだろうか、雨を眺めながら時間を流すためにコーヒーと過ごした。
雨が上がり、スーツケースを引きながら旧市街の方へと歩いていく。
ローテンブルクは城壁に囲まれた中世の街並みで有名な観光地である。
ドイツロマンティック街道の代表的な街である。
第二次世界大戦でかなり損傷を受けたが、世界中の人々の寄付で城壁は再建されて今のような城壁に囲まれた街となっている。
城壁の門をくぐり、旧市街に入っていく、切妻屋根のカラフルな建物が並んで建っている。
観光客がいるが、時間の流れはゆったりしていた。
【ローテンブルクの街並み】
街の中心のマルクトプラッツまでは荷物を引いて歩いて10分弱だろうか。
マルクトプラッツの傍にインフォメーションがあるので、そこで開いている宿を聞くが、観光地ということと午後2時をまわっていたためか予算内の宿がなかなか見つからない。仕方がないので、Jugendherberge(ユースホステル)の場所を確認して向かうことにした。
マルクトプラッツから7~8分で着いた。
レセプションでベッドが空いているか確認。6人部屋なら開いているということで、今日の宿はユーゲントへアベルゲに確定。
荷物を整理してロッカーに詰めて、インフォメーションでもらったシュタットプラン(街の案内図)を片手に街を散策することにした。
小腹が空いていたため、軽く何かを食べたいとブラブラしていたところ、ローテンブルクの名物であるシュネーバル(日本語:雪の玉という意味。麺状の小麦粉の生地を油で揚げて砂糖をまぶしたり、チョコレートでコーティングしたお菓子)のお店を発見。お店のお姉さんに一番のお勧めのシュネーバルを聞いて、珍しく素直にそいつを1つ買って店を出た。紙袋の中でシュネーバルを崩して一口サイズにして食べながら、プラプラ街を歩いた。
【シュネーバル】
シュネーバルは、美味しいのだが、のどが渇く。固いドーナツのようなものなので牛乳が合うことは明確である。牛乳が飲みたい。
茂のスイッチが入った。
「俺は牛乳が飲みたいなぁ」と心の中で呟きながら、歩を進めていると。
「お前は人間なのになぜ牛乳が飲みたいのか」と誰かが語り掛けてきた。
「誰だ!」と返す茂。
「ひひひ、私じゃ」。
怖くなった、ノックもなく勝手に心の中に入り込んできて話しかけてくる何者かがいるのだから。
私はこういうことになったことがないから、わからないが、非常に怖いだろうなぁと思うのである。
「なんなんだ、この話は!」とあなたが思う。
「この話とは何のことだ?」と茂が答える。
「おいおい、勝手に私をこの話の中に登場させないで」とあなたが思う。
「ちょっと待て!俺は牛乳を飲みたいだけなんだ」と茂。
「さっさと買って飲めばいいじゃない」とあなた。
「はい、そうします。」素直な茂。
こうして、茂はパン屋さんに入って、ミルヒ(牛乳)を買って出てきた。
作者が構想していた読者が登場する小説の試みが試された瞬間であった。
ここだけの話だが、茂は2歳3か月まで母乳を飲んでいたことをこっそりと教えてあげます。
内緒ですよ。茂とあなたと私の。
シュネーバルと牛乳、この組み合わせは正解であった。
だから、ローテンブルクに行った際には試してほしい。
【旧市街は城壁に囲まれている】
プラプラ歩いていたら、城壁までたどり着いた。城壁をあがる階段があった。
茂は生まれつき、階段があると上がってしまう習性を保有していた。
城壁に囲まれた街の城壁に上って歩きはじめた。これは実に面白い。
全ては繋がっていないが、40分ほどで城壁を使って街の周りを1周できるのだ。
ちょっと一休みしたいと思い、街の西にあるブルク公園に向かった。
しずかで人も少ない公園のベンチに腰を掛けて、ボーっとしてやった。
茂の得意技である。ボーっとするのだ。フォーカスを緩めて10分ほどボーっとするとHPが回復する仕組みになっている。
これは私も今初めて知った。
茂のHPはみるみる回復して、教師ビンビン物語かギンギラギンにさり気ないくらい元気になっていた。
ローテンブルクに来れば誰かに会えると言われてきたが、今のところそのような気配は微塵もない。
しかし、街並みがとても魅力的なので退屈はしなかった。
地図を眺めながら、この後はどこに行こうか考えていた。
クリスマスビレッジ(ケーテ・ヴォールファールト)というのが気になった。
茂はクリスマスがなんとなくウキウキする純粋な心の持ち主なのだ。
「よし、行ってみよう!」いかりや長介のように言ってみた。
でも、残念ながら似ていなかった。
「だめだ、こりゃ」またもや、いかりや長介のように言ってみた。
先ほどよりかちょっと似ていた。
「次いってみよー」これはどうだ? 読者に判断を任せることにする。
「もう、てめぇの命令なんか聞けるか! 俺たち下っ端はなぁ、あんたが大理石 の階段を上っている間、地べた這いず り回ってんだ。文句も言わず命令どお りになぁ!これ以上若いもんを傷つけな いでくれ・・・」
これは和久さん(いかりや長介)のセリフだ。
ローテンブルクの街をいかりや長介の真似をしながら歩く日本人、茂。
もう誰も「しげたん」とは呼ばせない。
そんな「しげたん」はクリスマスグッズが1年中買える「ケーテ・ヴォールファールト」に着いた。
多くの観光客が店の中で買い物を楽しんでいる。
いかりや長介気どりで店内を回っていると、意外に日本人もたくさんいることに気が付いた。
「まずい、お忍びで来ているのにバレてしまう」しげたんは自分がいかりや長介だと完全に誤解していた。
だめだ、こりゃ。
急いで店を出て颯爽と街を東に向かった。
かなり古い感じのレストランがあったので、とりあえずそこで今日はディナーを頂くことにした。
調理場が見やすい席に座り、シェフの顔を見た。
この店は正解だ!
シェフが顎髭を蓄えていて、太っているからだ。
しげたんは、美味しいレストランのシェフは顎髭があって太っていると決めつけているのである。
今日のお勧めを聞いて、それを1人前お願いしした。
シュバイネハクセ(豚のスネ肉のロースト)である。
厨房を覗いているとシェフが笑顔で手招きをする。
しげたんはそれに従い、厨房へと入っていた。
「このフライパンが俺の料理の決め手だ!」とシェフ。
「そうなんですか?」
「こいつはドイツが誇るフライパン『ruhru』だ。これのおかげで無駄に焦げることはない。
しかも10年保証だ。どうだ?」
「どうだって? すごいですね。」茂はすっかりいかりや長介を忘れ、対応に困っていた。
「安くしておくぜ」と髭のシェフ。
「え?フライパンを売りつけようとしている?」
「お前さんはきっといい料理人になる。これさえあれば」
「いや、旅の途中でフライパン買うのは邪魔になるので」
「だいじょうぶだ~」ちょっと志村けん風にシェフが言った。
「だっふんだ」茂も応戦した。
「10年保証。再コーティングもしてくれはるんやでぇ」と京風で攻めてくるシェフ。
「今は…」
「日本に届けてやるよ。試しにちょっと肉焼いてみるか!」
「は、はい」茂は油も引かずに豚のヒレ肉を焼き始めた。全然こびり付かない。さらっと滑るように焼けている。
「どうだ! これが本当のドイツの職人技のフライパンだ。」
「確かにすごくいいフライパンだとは思います。」
「じゃあ、買うんだな。」
「いや、そういわれても。」
「じゃあ、買わないんだな?」悲しい声で、突然、引いてきた。
「そんな風には…」茂の情け深いところが顔を出した。
結局、28センチの深型を1つ買うことになった。
なぜかレストランでフライパンを買ってしまった茂。
肝心の料理シュバイネハクセは、これまた本当にとても美味しかった。
【シュバイネハクセ】
やっぱりドイツの豚肉料理は旨いんだよな。
お客様にフライパンを売ることに成功したシェフは、サービスと言って食後に小さなケーキ出してくれた。
これはラム酒がたっぷりしみ込んだチョコレートケーキでコーヒーの苦さと非常にマッチした。
フライパンの件はあったが、非常に満足のいくディナーを楽しんだ茂だった。
エリーゼが言ったローテンブルクでの出会いとは一体なんなんだろう。
そんなことを思いながら、マルクト広場に面した市庁舎の階段に腰を下ろして
歩いている人たちを眺めていた。穏やかな時間と共に夜のとばりが降りてきた。
その日は、特に何もなく Jugendherberge(ユースホステル)に戻りシャワーを浴びて眠りについた。
ちなみに茂がこの旅で着けている時計はCHIANDCHIです。
CHIANDCHIはシンプルで飽きの来ないオシャレなデザインでイギリスやドイツで人気があります。
しかもそんなに高くないので、茂は旅行ではCHIANDCHIです。そのCHIANDCHIが日本に上陸しました。
(つづく)
つづきのストーリー【ドイツ男一人旅物語】11話 想像と妄想の境目で(ドイツロマン派のストーリー)
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